MSRA Fellowship 2012 award ceremony

MSRA Fellowship 2012 授賞式

アメリカの情報系企業で研究インターンをして印象的だったことの一つに、企業による博士課程の学生向けFellowshipの充実が挙げられます。これは、優秀な学生に研究費を給付し、業績やポテンシャルの高さを評価する仕組みです。Fellowshipを受賞した学生は、自由に使える研究費を獲得できるだけでなく、Fellowship自体が受賞歴として認められるため業績リストに書くことができます。

例えばMicrosoft, Yahoo!, Google, Facebookといった有名企業が、アメリカの大学院に通う博士課程の学生に対してFellowshipを与えています。ただし、残念なことに日本から応募できるFellowshipはほとんどありません。また、応募はできてもまず間違いなく通らないとか、学振に通っている人は研究専念義務があるから応募できないという問題があったりします。

そんななかでも、日本の情報系大学院生なら大手を振って応募できる(通った実例がいて学振とのコンフリクトもない)非常に珍しいFellowshipがMicrosoft Research Asia Fellowship (MSRA Fellowship)です。この概要と選考プロセスについて、2012年度に応募・採択された僕の経験をもとに紹介します。選考プロセスは変わる可能性もあるので、あくまで参考として読んでください。

ちなみに現在、公式ブログ記事によれば今年度のFellowshipへの応募を受け付けているようです。公式サイトには過去の受賞者一覧が掲載されています。このあとを読むまでもなく応募したいという人は、まずリンク先に目を通してみましょう。

Microsoft Research Asia, Beijing

MSRA所内の様子

MSRA Fellowshipに採択されると嬉しい理由

個人的には、冒頭に書いた通り以下2点だけでも十分だと思うのですが、

  • 研究費がもらえる ($10,000)
  • 業績リストに書ける(あのMicrosoft ResearchのFellowship!)

さらに豪華なオマケがついてきます。

  • Microsoft Research Asiaでのインターンシップの権利
  • Microsoft Research Asiaの研究者による博士課程修了までのメンターシップ

僕の場合はすでにMSRAでのインターンを経験済みでしたし、博士論文のテーマもだいたいはっきりしていたのでオマケの権利は行使しませんでしたが、未経験の人、D1の人には魅力的だと思います。(というか、メンターシップについては受賞後とくに連絡なかった気がするのですがこっちから頼まないとメンタリングしてもらえなかったんでしょうか? > @msraurjp氏)

ちなみにMSRAでインターンを経験していると、Microsoft本社(Microsoft Research Redmond)でのインターンに参加しやすくなるという都市伝説があります。これは実際のところ都市伝説でもなんでもなく内部の制度として明示的に優遇されているようですし、暗黙的にもMSRAでちゃんとやっていれば有利になるはずです。当時の経験について詳しくは要望があれば別の機会に書くかもしれませんが、MSRA滞在時のインターン仲間は、今では僕とイギリスにいる一人を除いて全員アメリカ(New York, Sillicon Valley, Seattle, …)にいます。大変優秀な同僚でしたし、今でも連絡を取り合う友人です。北京は大気汚染こそ気になりますが、治安はそこまで悪くないしご飯は美味しいし、文化的に面白いし、充実した日々でした。

実は、MSRA Fellowshipがここまで豪華になったのは数年前のことです。過去の受賞者一覧を下のほうにさかのぼると、毎年10人程度の採択者がドヤ顔と文章で紹介されているところから、いきなり毎年30人程度の名前がズラッと並ぶところが現れます。そこが分かれ目で、最近は同じバジェットをより少数の精鋭に集中させるというふうに狙いがシフトしたようです。

さらに、今年は大学フィルタと学内選考がなくなったようです。僕の年は東大、京大、…など、MSRAが声をかけた特定の大学の人にしか応募資格がなく、さらに学内でいったん選考があったため、例えば東大からは一名だけ、というように一部トップ校には厳しい制約がありました。これがなくなったので、応募の敷居は一気に下がったように思います。

MSRA Fellowshipに応募すべき理由

採択されたいから応募するのは間違いないのですが、とはいえMSRA Fellowshipは非常に狭き門です。

では、どうせ通らないからといって応募しなくていいのか?それは捉え方の問題で、選考プロセスを研究成果を英語で分野外の人にも分かるようにプレゼンしてみる貴重な機会と考えることもできます。審査が進むと質疑応答もあるので、単に採否判定をもらうのではなく、肉声でフィードバックを得ることもできます。博論審査は英語でない人が多いかもしれませんが、評価指標は似ているところがあると思います。そう考えるとこれは非常によい練習ですから、ぜひ挑戦してみてください。

また、選考プロセスのなかに北京のMicrosoft Research Asiaを訪問してプレゼンするフェーズがあります。遠隔参加でプレゼンしている人もいたので必ずしも訪問することを強いられるわけではないですが、僕としては一度くらい訪問することを強く薦めます。オブラートに包まずに言うなら、大気汚染でインターンを思いとどまっている人も、一日滞在するくらいならいいのではないでしょうか:-) 日本人研究者も増えてきていますし、非常に恵まれた研究環境なので、実際に見てみたら考えが変わるかもしれません。

Tools for Programming in the Real World

Tools for Programming in the Real World (第一ステップで用いたPowerPointファイル)

MSRA Fellowshipの選考プロセス

今年から大学内選考がなくなったり制度がいろいろ変わっていそうな気はしますが、僕の場合の選考プロセスは次のような2ステップでした。

  • 7月初旬 履歴書+大学の専攻長および指導教官からの推薦書+ナレーションを吹き込んだPowerPointまたは動画による研究紹介の資料を大学宛に提出する
  • 9月下旬 北京のMicrosoft Research Asiaでプレゼンテーションを行い、質疑応答を受ける
  • 10月下旬 天津のComputing in the 21st Century Conferenceで授賞式に出席する

第1ステップ: PowerPointスライドなどによる選考

意外と書くことがないので、1ステップ目のスライドを公開します。ただし、問題ありそうな部分だけ数枚削除してあります。スライドの画像をクリックしてダウンロードしてください。博論を書き終えた今見ると何とも漠然とした資料だなあと感じるわけですが、当時の自分が限られた時間で精一杯頑張って完成させたもので、それなりに思い入れがあります。2ステップ目のスライドは、戦略的に、顕著な成果の出ているプロジェクトを紹介したほうがいいと判断してDejaVuに絞ったうえで動画のデモなどを加えてブラッシュアップした内容にしました。こちらは公開予定はありません。

僕はナレーション入りのPowerPointスライドをまともに作るのが初めてだったのですが、わりとよくできてるなPowerPoint!と感心したのを覚えています。普段から作り慣れているスライドにマイクを使って音声を吹き込んでいくだけなので、動画を作るよりは簡単だと思います。また、各スライドのノートに読んでいる文章の原稿を書いておけるので、発声が聞き取ってもらえなくても何とか理解してもらえるかなーと淡い期待をしていました。

第2ステップ: プレゼンによる選考

1ステップ目のあと、僕の年は候補者が20人強に絞られ、全員が9月下旬にMSRAに呼ばれました。Fellowshipの選考に必要な宿泊費や旅費はもちろん先方負担で出してもらえます。確か北京で抗日デモがあった数か月後とかで、現地の治安に不安がありました。そんなわけで、MSRAの人が北京空港まで直に迎えに来てくれました。道中で何かあったら責任問題ですから当たり前かもしれませんが、この心遣いはありがたかったです。

面白かったのが、この日、2ステップ目の選考面接以外に候補者全員を対象とした謎のイベントがいろいろスケジュールされていたことですね。まだ何人がFellowshipとして選ばれるか分からない状態で、候補者全員を集めて研究室見学をしたり、Microsoftのロゴ入りグッズをプレゼントされたり、ご飯を一緒に食べたり、記念撮影をしたりしました。

いちおうMSRAとしては優秀な学生同士で交流してほしい、MSRAの研究環境を見てほしい、という狙いがあったようですが、候補者同士で不思議がっていました。どの国の学生も博士課程ともなればカオス耐性を装備しているのか、この奇異な状況を話のネタにして盛り上がっていたので、それで険悪になったりはしませんでした。まぁギスギスしたところで何の得もないですからね。

授賞式

けっきょく2ステップ目のあと半分以上の人が選考から漏れ(あの記念撮影は何だったのか!)、晴れて10名にFellowshipの授与が通知されたのは10月中旬の頃のことでした。

このあとは指導教官と共にFellowship授与式へ招待されます。授与式はMSRAとアジア圏の大学が共催する会議「Computing in the 21st Century Conference (21CCC)」のプログラムの一部になっています。

21CCCは2009年には日本で開催され、Alan Kayや金出武雄先生がいらしていたようです。2012年度の授与式の模様はInside Microsoft Researchというブログの記事にあがっています。僕の年は天津での開催だったため、ちょっとした観光ができました。

長々書いてきましたが、応募にかかる労力は最初のナレーション入りPowerPointスライド作りがピークで、あとは大したことありません。これで$10,000とその他いろいろな特典が手に入ると考えればコストパフォーマンスは決して悪くないと思うので、みなさんもぜひ挑戦してみてください!

天津の有名なレストラン、狗不里でのFellowship受賞者ディナー

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4 Responses to “Microsoft Research Asia Fellowship応募のすすめ”

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