学生向けおすすめ記事は、基本的に自分が学生の頃の体験をもとに書いています。博士課程を一昨年修了したので、新しい記事を書くことはもうないだろうなぁと思っていました。ところが、今年の国際会議ACM UIST 2016でStudent Volunteer Chairを拝命したため、今度は学生に仕事をお願いする立場で学生の役得を実感することになりました。
この記事では、Student Volunteer (SV)の概要、SVになる方法と、なった場合のスケジュールなどについて紹介します。なお、ACM(コンピュータ科学系の国際学会)主催の国際会議を前提に話しているので、別の分野や別の学会ではちょっと勝手が違うかもしれません。
Student Volunteer (SV)とは
Student Volunteer (学生ボランティア, SV)は、その名の通り学生がボランティアで会議の運営を手伝うしくみです。ただ、ボランティアとして参加するスロット(時間)は決まっていて、残りの時間はふつうに会議を聴講できます。
SVになると、参加費無料で会議を聴講でき、会議運営の裏側を覗けるだけでなく、一般参加者から頼られる存在になり、同年代の優秀な研究者の卵と知り合えるため、単に聴講参加するよりも何倍も濃厚な体験をすることができます。このメリットはとくにトップ国際会議で顕著で、SVになることでインターンの道が開けたり、博士課程修了後の就職先が見つかったりすることもあるようです。
メリットがとても大きいため応募倍率はえてして高く、SVはなろうと思えば必ずなれるものではありません。多くの場合抽選を経て選ばれます。私は学生の頃に何度も応募しましたが、全部落ちました。そういうこともあります…。ちなみに、Student Volunteer Chairになって学生を選ぶ側になって一番聞かれた質問が「どうやって選んでるんですか?どうやればもっと選ばれやすくなりますか?」ですが、簡単な回答はありません。それでも気になる人のために、ちょっとしたTipsを記事の最後のほうで紹介します😊
Student Volunteerになる方法
SVになるには、まずSV Chairが指定する方法でSV候補生としての登録を済ませる必要があります。SIGCHIが主催しているCHIやUISTといった国際会議では、 chisv.org というお手製の登録システムを使っています。この登録作業には厳密な〆切があり、〆切を過ぎるとSVにはなれません。〆切への感度、レスポンスの速さはSVになるうえで非常に重要な要素なので覚えておいてください。
候補生の登録期間が過ぎると、SV Chairが抽選を行います。なお、前述の chisv.org を使っている会議では、Web上でlottery (抽選)を回せるようになっています。この時点で、当選者には「当選したのでSVになりたい場合は返信をください」メールが送られます。
実際にSV Chairをしてみて驚いたのが、初期当選者のうち最後まで残り、実際に会議に参加するSVの少なさです。具体的な比率は言えませんが、この時点で落選してもまだまだチャンスがあります。いったん当選しても後々ドロップアウトする理由には以下のようなものがあります。
- 会議に参加するための旅費が捻出できない(会議参加費はカバーしますが、旅費や滞在費は研究室から出してもらうか自腹のケースがほとんどです。)
- 会議と重要な要件がかぶってしまった(ちゃんとスケジュール立てておいてほしいですが、どうしても外せない用事が入ることがあるようです。)
- 指定された期日までに返事を返さなかった(意外とこれが多い!!!)
ドロップアウトが出ると、落選者のなかで優先順位にしたがって一人ずつ声をかけていきます。ドロップアウトが多い場合は複数人に声をかけることもありますが、それでも一度に声掛けできる人数には限りがあります。そのため、どうしても返答期日をタイトに設定せざるを得ません。落選した人も、ちゃんと定期的にメールボックスを確認してタイムリーに返信するようにしましょう。
Student Volunteerとして活躍する
晴れてSVとして選ばれたら、会議の会期中で活動できるスロットややりたいタスクの種類を申請します。例えば、どうしても聴講したいセッションがある場合は、そのセッションを除いて別のスロットにタスクを割り振ってもらうか、あえてそのセッションのマイク持ちのタスクを希望することができます。
SV Chairは全員の希望に応えることはできませんが、なるべく希望が通るように腐心します。ここで希望を何も書かないと、他の人がやりたがらないタスクばかり割り当てられるので注意してください。逆に人気なタスクばかり書いていても同じことが起きるので、何事もバランスです😊
SVは、開催前日に現地集合してオリエンテーションを受けます。といっても形式ばったものではなく、スケジュールを最終確認し、SVとしての心構えに関するレクチャーを受け、Tシャツをもらうだけです。ここで、必要に応じてタスクを他の人と入れ替えることができます。
SVの心構えとは、だいたい以下のようなものです。(今、思いだしながら書いているので実際に喋った内容とは違うと思います。)
- SVは会議参加者を親切に迎えるべし
- SVは楽しむべし
- SVはSV同士で仲良くなるべし
- SVはSVの立場を利用して憧れの研究者に近づくべし
- 何か問題が起きたら抱え込まずSV Chairに報告すべし
多くの会議でSVは目立つTシャツを着ることになっており、このTシャツは貸与でなくプレゼントされます。Tシャツを着ていると、SVは参加者にいろいろなことを聞かれます。当日の参加登録はできないの?近くでバブルティー飲めるとこない?次のセッションは何時から?昼飯の弁当は何時から食えるの?チケットなくしたけどどうしよう?トイレどこ?…などなど。
どんな場合でもまずは親身になって対応し、自分で判断できなくなったらSV Chairに投げるのが基本動作となります。SV Chairは他のOrganizing Committeeメンバーとも知り合いで、参加登録やチケット紛失など、他のChairと連携しないといけない場合にもスムーズに対応できるようどっしり構えています。(実際にはLocal Chairと一緒に走り回っていることも多いです😋)
こうして会議が無事終了すると、SVだけが参加を許されたパーティが開かれます。会期中は忙しくてなかなか会話できなかった人ともここで親交を深めることができます。さらに、SV Chairによっては他のOrganizing Committeeメンバーにも声かけしていることがあり、夜が更けてから偉い先生方がSVパーティを冷やかしにきてくれたりします。
Student Volunteerの選び方
最後に、ちょっとだけSVの選び方について書いておきます。前述したとおり「どうやって選んでるんですか?どうやればもっと選ばれやすくなりますか?」への簡単な回答はありません。というのも、SV Chairはバランスとダイバーシティが重要だと考えているからです。
英語を話せることはもちろん必要です。ただ、英語が流ちょうなほうがいいのは当たり前ですが、少し時間がかかっても意思疎通できるレベルであれば採ります。それより重要なのは、SV Chairからの連絡に即座に応えられることです。ウェイトリストに入っている人の場合は、それが決め手になることが多々あります。
また、会議によっては、採択論文を決めるために大量の論文を査読するProgram Committee(プログラム委員)がSVを推薦できる仕組みを採っていることがあります。この場合は、プログラム委員と知り合いになっておき、推薦してもらうと、当選確率がぐっと上がります。
会議の開催地によっては、ローカルのSVをある程度以上入れておかないといけないと判断されることもあります。例えば日本開催の国際会議では、日本語が話せるSVがある程度以上必要となり、海外開催よりも日本語話者の当選確率は上がります。ただ、多すぎるとバランスがおかしくなりますし、英語を話せる(と申告する自信のある)日本人学生の数がそもそもあまり多くないので、過半数になることはまずないでしょう。
SV候補生の登録フォームには、これまでのSV経験を書く欄があったりします。かつて自分が学生だった頃、これはこれまでSVやったことがない人を優遇するための欄だとばかり思っていましたが、実はこれがそうとも限らないことが分かりました。というのも、SV経験者はSVの流れを理解しているため、SV Chairから見て頼りになる存在なのです。もちろんSV未経験者にはたくさん入ってほしいですが、少しはSV経験者がいたほうがバランスがいいのです。
というわけで、SVの選び方は一筋縄ではいかないことをご理解いただけたでしょうか。SVになってみたいみなさん、ぜひ正直に登録フォームに記入し、SV Chairに意気込みをアピールしてみてください。
一緒に国際会議を作り、盛り上げて行きましょう!
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