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これまでにも情報科学系 海外研究インターンのすすめ〔前編〕〔後編〕北京に4ヶ月住んだ話(Microsoft Research Asia)などを書いてきましたが、シアトルに3ヶ月住んだ話(Adobe Research)は書けていませんでした。なぜなら、端的に言うと、この研究インターンは失敗だったためです。もう今更のことだし楽しかったし後悔はしてないのですが、客観的に見て明らかに失敗でした。

というわけで、研究留学Advent Calendar 2017にかこつけて、よかったこと…だけでなく、こういうのはやめたほうがいいよ!という失敗談を提供したいと思います。下の写真はAdobe Research Seattleの中庭です。橋のたもとで水と緑、日差しに恵まれたすばらしい景色ですね。うらやましいですか?…最後まで読んでみてから、ご判断ください。

Adobe Research Seattle

私「ファンです」

どんな失敗も始まりの時点ではどうなるか分からないものです。この研究インターンも例に漏れず、むしろきっかけ作りのところは最もうまくいったと思っています。海外研究インターンのすすめでも触れていますが、インターンのきっかけは人づてにお願いして作ってもらうのが最も多い…気がします。一方、このAdobe Researchに行くきっかけは自分で作ることができました。それは、DejaVuという統合開発環境(IDE)の研究を発表したHuman-Computer Interaction分野のトップ国際会議ACM UIST 2012でのことでした。2012年10月ですね。

Joel Brandtという、Stanford大のScott Klemmer(現UCSD)の下で博士号を取ってAdobe Researchに就職し、AdobeのBracketsというIDEに実装されたBlueprint [CHI ’10]やTheseus [CHI ’14]などの機能を研究開発した研究者がいます。JoelのことはDejaVuの研究をするときに色々調べて知っていたので、UISTで会えたらいいなと思っていました。

そのJoelが、DejaVuと同じセッションでConstraintJSという共著発表があった関係で、セッション終了後に登壇発表者がたむろしているあたりに来てくれました。そこで声をかけ、私の発表を見てくれていたことを確認し、興味が近いこと、今こんなテーマを考えているということ、そして何より私がJoelの研究のファンであることを伝えました。

しばらく雑談したあと、Adobeが定期的に研究インターンを雇っていることを事前情報で知っていたので、インターンに興味がある旨を伝えたところ、いいね!CVを送ってくれ!と言ってくれました。(こうした反応がどれくらいポジティブなニュアンスかは、文字面では判断しづらいのですが、少なくとも対面で話していた感触ではけっこう可能性ありそうな雰囲気でした。)

Researcher「サンノゼじゃなくシアトルで」

2012年10月のUISTでJoelに会って会期直後にメールを送ってから、しばらくは音沙汰がありませんでした。気になったので12月末にpingしたところ、年明けに「今ちょうどインターン用のバジェットを確保してるところだからもうちょっと待ってね」と連絡がありました。また、ラボ全体に連絡が行くインターン応募用メールアドレスがあるので、そちらにもCVを送るようお願いされました。その後、2013年2月にJovan Popovicという別の研究者から連絡があってSkypeミーティングをしました。

結論からいうと、JovanとJoelのダブルメンター体制でインターンをしようということになりました。Joelはサンノゼ本社、Jovanはシアトル支社のラボに勤めているので、サンノゼかな?と思っていたのですがシアトル勤務になりました。シアトルは前年のMicrosoft Research Redmondインターンで行っていたレドモンドの隣にあって、土地勘はわりとあったので暮らしやすいのは知っていたのですが、新しい場所好きの自分にはちょっと残念…ただ、これは混迷を極める留学の序章に過ぎませんでした。

Prof.「博士論文と両立」

7月、インターン直前にインターン期間についての議論がありました。実は私は、2013年度が博士の最終年度(見込み)でした。当時、2013年の夏は博士論文執筆のハイシーズンだったのです。この記事を書いている私は、2014年3月に博士号を無事取得できたことが確定している世界線にいるので、文章も落ち着いてタイピングできています。それでも冷や汗がにじむような緊張感があります。

米企業のよくある研究インターンは、アメリカの大学院の夏季休暇に合わせて7-9月ですが、これが論文執筆期間ともろにかぶっていたわけです。さらに、10月のUIST 2013でDoctoral Symposiumに参加することが決まっていました。そこで、Adobe研究者と指導教官と相談して以下のオプションを検討しました。

Option (a) 博論執筆終了させてUIST 2013後にインターン
UISTは10月頭から一週間なので、そこから3か月だと、博士論文締め切りの12月はシアトルにいることになります。不可。
Option (b) 博論ディフェンス後、博士号確定してからインターン
一般的には2月頭にディフェンスなので、そこから3か月だと今度は入社とかぶります。不可。
Option (c) なるべく博論を形にしてから8-11月インターン
期間中も博論執筆する前提でインターンに行きます。インターン途中でUIST 2013にも参加。

けっきょく(a)と(b)は不可能だったので(c)になりました。昼はAdobeの研究、夜は博論執筆という大変な3ヶ月間の幕開けです。

インターン期間の進捗

シアトルの夏

正直言ってあまり覚えてないのですが、8月、シアトルに行きたての頃はまだ多少余裕があったような気がします。気候もよく、さわやかな日々が続いていました。気が向いたら撮っていた写真も明るいです。

9月になってくるとAdobeインターンのほうは方針が固まってきました。興味があり、なおかつ勉強したいと思っていた分野のテーマになり、とてもいい滑り出しでした。一方で、博論ページ数の伸び悩みに苦しむようになります。博論の章立てなど骨組みは決まっていたので、進捗を可視化するために以下のようなグラフを半自動で生成できるようにしていました。

博士論文ページ数の推移

10月、インターンでは、進捗はありつつも今一つブレークスルーがないといった感じでした。また、一週間弱エジンバラへ出張してUIST 2013 Doctoral Symposiumで博論の概要を話し、概ね方針としては大丈夫そうだというお墨付きを得ますが、やはり進捗が芳しくない…この頃からもう完全にインターンより博論のほうが重大事になってきました。

ただ、そんな中でもちょっと無理をしてHuman-Computer Interaction分野の名門University of Washington (UW)のDUB (Design, Use, Build) Seminarで発表をさせてもらったのは非常によい経験でした。ちょっと記憶があいまいですが、UWのAndy Koという非常に尊敬している教授に連絡を取ったら機会をくれたような覚えがあります。このときの動画は多少編集が荒いですがVimeoに上がっていて、今でも見ることができます。(ちなみに、私の研究に興味のある方はぜひ今秋CMUで講演した際の最新の動画のほうをご覧ください。)

11月になるとシアトルは濃霧の日が多く、ほとんど晴れない陰鬱で肌寒い気候になってきます。私はというと、インターンの始末をつけないといけない上に、帰国日が見えてきて、このままでは帰国後に教授に合わせる顔がない、という危機感が募って、これまた陰鬱な気持ちになっていました。気が向いたら撮っていた写真も、彩度ゼロの霧に埋もれた紅葉がかろうじて自己主張するような景色をよく映していると思います。

このときの反省として、生活の基盤となる部屋は多少値が張っても便利がよくゆとりのあるところを借りたほうがよいと感じました。私はStudioという日本でいうところのワンルーム、しかも半地下のところを借りたのですが、もっと気分の晴れる、最低でも1BR(1LDK)でそこそこ窓の外の景色がよいところを借りるべきでした。アパート選びのポイントについての記事が参考になります。

ちなみに、ビザの手配をどれくらいサポートしてくれるか、住む場所まで手配してくれるかどうか、などの対応は企業によってまちまちです。前年に行ったMicrosoft Research Redmondはどちらもとても手厚く、ほぼ何も考えなくてもアメリカでの生活を始めることができました。一方Adobeは、ビザの手配を外部の団体に委託しており、多少手間が多かったです。また、住む場所は自身で見繕う必要がありました。そのために、日本からの出国前、博論執筆のための貴重な時間を、事務的なことでけっこう削られてしまいました。

シアトルの秋

まとめ

けっきょく3か月のインターン期間に得たものは以下の3つでした。

  • 諦めない心
  • 30→80ページに増えた博論原稿
  • Adobeで勉強した新分野の知見

Adobeでの経験はとても得難く、よい友人にも巡り合えましたが、一方で研究成果を論文にまとめることはできませんでした。博士論文は最終的にはそれなりに満足のいく出来で、情報処理学会の推薦論文にも選出していただきましたが、明らかにインターン前に完成させてから行くべきでした。推薦論文に寄せたコメントでこの記事を〆たいと思います。

五十嵐先生、坂本先生、多分野にわたる主査副査の先生方と研究室の皆様のお世話になりました。MicrosoftやAdobeでの海外研究インターンではメンターに恵まれ大変よい経験を積めました。この場を借りて御礼申し上げます。なお、博論執筆の最中に遠隔地のインターンへ行くことはお薦めしません。寿命が縮みます。


One Response to “Adobe Research Internship─または博論執筆の記録”

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  1. インターンは居場所作り | junkato.jp

    […] インターン当時の詳細な話は「北京に4ヶ月住んだ話(Microsoft Research Asia)」「情報科学系 海外研究インターンのすすめ〔前・後編〕」に詳しく載っているのでそちらにゆずります。あと、ちょうど樋口さん、牛久さん、徳田さんがRedmondに行っていたのと同じ時期にAdobeに行っています。そのときの苦しみは「Adobe Research Internship─または博論執筆の記録」に書いてあります。 […]

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